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陽炎の向こう側             浅井 キラリ

陽炎の向こう側   浅井 キラリ

この空の下で 49

エバンストン


翌日、ゆっくり起きて、量ばかり多い朝食を食べて、昨日、空港で借りたレンタカーで北へ向かう。

エバンストン。

Northwestern Universityがある街。

人口、約7万人。

森の中の街というのが第一印象。

ロータリークラブなど様々な機関の本部があることから『ヘッドクォーター・シティ』と呼ばれている。

隆も、ロータリークラブの奨学金をもらっていた。

Northwestern大学は、1851年創立で、約1万5千人の学生が勉強している。

その内の40%が結婚しているかパートナーがいる。

そして、30%が留学生という大学だ。

Quaecumque sunt vera(真なるもの全て)が大学の校訓。

隆が学ぶのは、ケロッグと呼ばれる大学院、いわゆるMBA。

「わ~、きれい。緑が一杯。こんな所に住めるなんて。まるで、軽井沢みたい。大きな家ばかりね。あっちの赤い屋根の家、ステキね。」

「本当にきれいな街だな。黎、ここに2年間、住むんだぞ。幼稚園にも行くんだからな。」

「うん。お友達いる?」

「いるさ。沢山。いろんなお友達がいるぞ。」

「ふうん。お絵かき、みんな出来るかな?黎は、出来るよ。粘土も。折り紙は少し。」

車で、森の中の街を抜けて、大学へ。

3人は、大学の寮に住むことにしていた。

子供がいる家庭用の2ベッドルームのアパート。

日本の2LDKとは大きさが違う。

学生寮なので、家賃も一般のアパートよりかなり安い。

エバンストンは、高級住宅地なので、家賃は、それなりに高い。

私立大で、授業料も高く、黎を幼稚園に通わせることを考えると、少しでも、切りつめなければならない。

一応、家具付きの部屋を選んだ。

すぐにでも、生活が出来るように。

部屋に着くと、窓を開けた。

「まるで、森の中のお家ね。景色もいいわ。気に入った。ねえ、黎。あっ、リスがいるわ。」

「リス?どこ?どこ?」

「昼ご飯でも食べに行こうか、そのついでに、生活用品や食料品を買ってこよう。」

街のダウンタウンに行くとおしゃれなお店が建ち並び、日本食店もあった。

ちょっとしゃれたカフェに入った。

隆と彩子は、サンドウィッチとカフェと黎にアップルジュースを選んだ。

量が多いので、二人のサンドウィッチを黎に分けて丁度いいくらい。

「お世辞にも美味しいとは言えないけれど、これがアメリカン?」

「君の手料理に期待するよ。彩子も何か授業を取るといいよ。帰国後の仕事に有利になるようにね。」

彩子も、黎を幼稚園に行っている間、大学の授業を取ることにした。

帰国してからの自分の仕事に役立つように、ライティングと趣味として絵画の授業を取った。

隆の学園生活は、勉強漬けというのがピッタリ。

宿題、予習、試験勉強と日本の大学での勉強の比ではなかった。

彩子と黎がテレビを観ていても、隆は、傍らで分厚い教科書を読んでいる。

黎は、彩子や隆の心配をよそに地元の幼稚園にすっかり溶け込んでいった。

「隆の英語の発音より黎の方がネイティブみたい。スゴイね、子供の適応力って。感心しちゃうわ。この間、お迎えに行ったら、なにやら他の子とおしゃべりしているのよね~。参っちゃう。親よりスゴイ吸収力。」

「こっちは教授の言っていることを一言たりとも逃すまいと必死だよ。レポートを書くのにも時間がかかるし。そうだ、レポート手伝ってよ。」

「冗談。こっちだって宿題山ほどあるのよ。」

季節が巡るのは早い。

10月になると、冬の足音。

寒いとは聞いていたが、0度以下が当たり前。

11月のサンクスギビングが終わると、クリスマスのイルミネーションが各家で輝きだした。

それぞれの家が競い合っているようだ。

大きなトナカイやサンタクロースのイルミネーション。

街そのものがクリスマスツリーみたいだった。

それを見て回るのも楽しかった。

それを見て回るのも楽しかった。

黎は大喜び。

海外で過ごす初めてのお正月。

彩子の母親がおせち料理を送ってきた。

「アメリカでおせちを食べるとはね。後で、日本に電話しよう。」


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